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オンライン対戦アクション + ローグライクMOアクション


異能マスカレイドDW

マヤの記憶

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デビルサマナー 第一章


 テーブルの上に一枚の羊皮紙を広げる。紙の縁は焦げたように黒ずみ、ところどころに茶色いシミが浮かび上がっている。紙自体が時の経過を感じさせるように、黄ばんで乾いた匂いを漂わせていた。私はその紙の前に座り、深く息を吸い込んだ。手元には、鋭利なナイフが蝋燭の火を映してゆらゆらと輝いている。ナイフの刃を慎重に指先に当て、滑らせる。ほんの一瞬、鋭い痛みが走り、次の瞬間には深紅の血がゆっくりと滲み出てきた。私はその血を紙の上に垂らし、指を使って魔法陣を描き始めた――・・・。

* * *


 とくにやりたいことはなかったけれど、どうしても親元から離れたかった私は、就職活動に悪戦苦闘した末、都市部にある、中規模の会社の事務室の椅子に、どうにか滑り込むことができた。でも、そこで待っていたのは、只々無味乾燥な日々だった。

 書類を整理し、データを入力するだけの毎日。同僚たちは楽しそうに会話をしていたが、私は、うまくその輪に入り込むことができなかった。

 ああ・・・、私は、子供の頃からそうだった。私と他人との間には、目には見えないが、強固なガラスの壁のようなものがあり、私には、その壁を壊せないのだ――・・・。

 私は、いつも一人ぼっちで、誰とも打ち解けられず、孤独な時間が流れていく。彼らの笑い声が聞こえてくる度に、心の中に疎外感が広がっていった。

 ある日、上司から厳しい叱責を受けた。ミスをした覚えはなかったが、言い訳をする気力もなく、ただ頭を下げてその場をやり過ごした。上司の言葉が胸に突き刺さり、何度も反芻される。結局、私は職場に馴染めず、退職することに決めた。

 着替えもせず、自室のベッドに転げ込むと、もう、何をする気も起きなかった。すぐに生活は昼夜逆転し、食事もろくに取らず、ゴミの散らかった部屋の中で、虚無感に浸る日々が続いた。窓の外の世界は遠く、私には関係のない場所に思えた。何もかもが無意味に思え、ただ暗闇の中に沈んでいくような感覚だった。

 目減りしていく口座残高に心を焦がされながら、私の中では、職場への恨みや怒りが渦巻いていた。そんな時、ふと目にしたのは、ネット上の黒魔術のサイトだった。

 呪いの方法や、悪魔召喚の儀式について書かれた情報に興味を引かれた私は、はじめは半信半疑だったものの、次第にその世界の魅力に取り憑かれていった。

 ネットの情報だけでは飽き足らず、古い書物や呪具をなけなしの金で収集し、自分なりに様々な儀式を試みた。生ゴミのような腐臭が漂っていた私の部屋は一度きれいに整頓され、代わって床には、手作りの粗末な表紙に古代の模様やシンボルが書かれた本や、赤黒いインクで呪文やらメモの描かれた紙が乱雑に散らばりだした。部屋の中央には大きな木製のテーブルがあり、その上にも本やら呪具が積み上がっていく。蝋燭立てが並べられ、炎が揺らめき、ほのかな光を放っている。テーブルの一角には、黒い布に包まれたお香が置かれ、甘さと苦さが混じり合う、独特の重い匂いが部屋に漂う。私の生活は黒魔術一色になっていった。

 職場のことなど、どうでもよくなっていた。混沌とした怒りの情動がもたらすエネルギーの方向を少し曲げ、猥雑な絵に吐き出し、駄文を添えてネットに流してやれば、多少の金を得られた。人に会う煩わしさも必要もない。この魔術が成功すれば、悪魔が現れて、必ず私を助けてくれる。私はそのことを確信していた。

 その頃の私の悩みと言えば、壁の薄い安アパートの外からたびたび聞こえてくる、工事現場の騒音が気になっていたことくらいだ。

 呪具を並べ、呪文を唱え、儀式を繰り返すことで、自分の中に力が宿る感覚を覚えた。現実の世界から逃れ、魔術の世界に没頭することで、私は初めて自分自身を見つけた気がした。

 ある黄昏時、私はついに悪魔召喚の儀式を行うことにした。テーブルの上に一枚の羊皮紙を広げる。紙の縁は焦げたように黒ずみ、ところどころに茶色いシミが浮かび上がっている。紙自体が時の経過を感じさせるように、黄ばんで乾いた匂いを漂わせていた。私はその紙の前に座り、深く息を吸い込んだ。手元には、鋭利なナイフが蝋燭の火を映してゆらゆらと輝いている。ナイフの刃を慎重に指先に当て、滑らせる。ほんの一瞬、鋭い痛みが走り、次の瞬間には深紅の血がゆっくりと滲み出てきた。私はその血を紙の上に垂らし、指を使って魔法陣を描き始めた。血が足りなくなると、再び指を切る。そのうちに、手首にも傷を作り、痛みを無視して描き続ける。部屋を満たす匂いに鉄の成分が混ざる中、私はその作品の完成に向け、集中力を研ぎ澄ませていく――…。



デビルサマナー 第二章


 儀式の成功を確信した私は、恍惚に震えた。闇が渦を巻き、空間が歪む感覚の中で、私は新たな力を手に入れたのだと思った。

 突然、魔法陣の上に、小悪魔が現れた。・・・金髪の、頭部がやたら大きな、女の子のような姿をした生物。黒いローブを身にまとい、背中に生えた羽を動かして浮遊するその姿から、私はとりあえず、これを小悪魔と呼ぶことにした。

 小悪魔は、宙を滑るように近づいてきて、私の顔をじろじろと見た後、げんなりとした表情を浮かべた。

「アンタみたいな、陰気な女と契約するなんて、嫌だ!」

「たしかに、アルカナの力は感じるけど・・・」

「あたしの魔王サマは、もっと見るからに強そうな、ムッキムキの筋肉マンがいいんだ!」

 魔法陣の上で、ゴロゴロと転がりながら、筋肉筋肉と駄々をこね出した小悪魔に辟易した私は、窓の外、遠くに見える、建設中の高架道路を指差した。夕暮れの空の下、やかましい工事の作業音が鳴り響いていた。

「そんなに筋肉マンが好きなら、あの辺にいるんじゃない?」

「そうだねっ!」

 小悪魔は、元気よく、窓から飛び出していった・・・。

 その翌日、ある工事現場で発生した凄惨な大量殺人事件のニュースが、全国を震撼させることになる。

 しかし、ニュースを見ない私には、どうでもいいことだった。私の関心はただ一つ、次なる召喚に向けての準備だった。

 あの小悪魔に落胆した私は、さらに黒魔術の研究に没頭していった。悪魔に関する書物を漁り、独自の儀式を考案し、日々を魔術に捧げた。

 私は確信していた。私はきっと、この闇の道の先に、新たな光を見つけるのだ。自分だけの理想の悪魔が現れて、私を救ってくれるのだ――・・・。そのためならば、どれだけの時間を費やしても構わないと思った。

 暗闇の中で孤独を抱えながら、私は、次なる儀式の準備を続けた。蝋燭の炎が揺れる部屋の中で、呪文を一つ一つ確認し、魔法陣を何度も描き直した。私の手は血で汚れ、体は疲れ果てていたが、心の中には奇妙な充実感が広がっていた。

 魔法陣から溢れる闇の力が、新たな悪魔との逢瀬を予感させる――・・・。



デビルサマナー 第三章


 魔法陣の中央に黒いシルエットが浮かび上がった。シルエットは徐々に色を帯び、見上げるような人狼の姿が現れつつあった。しかし、その姿は一瞬で蒸発し、何も残らなかった。

「失敗した・・・?」

 私は戸惑いとともに呟いた。

 その時、部屋の窓が急に開き、風が吹き込んだ。何かが勢いよく飛び込んでくる。

「ふー!間に合った!ちょっと君、そう勝手に召喚なんてしてもらっちゃ困るよ!」

 銀色の猫が、透明の4枚羽をゆったりと動かして、浮かんでいた。

 猫のような生物。フサフサの4本のしっぽが生えており、その瞳は、金色と水色のオッドアイ。金色の側の目は、同じく金色の仮面で縁取られている。その姿からは、悪魔らしい禍々しさは感じられず、猫型の妖精という印象を受けた。私はとりあえず、猫妖精と呼ぶことにした。

 猫妖精は、身長よりも長い杖を持っており、その先端に嵌められた赤く大きな宝石からは、何らかの強力な力が発動されたような残り香を感じた。

「君さ、ニュースとか見る?前に君が召喚した悪魔が、ニンゲンの男と手を組んで、大変なことになってるんだよ!」

 猫妖精はそう言いながら、私の周囲を飛び回り始めた。

「さっき君が召喚しようとした奴は、悪いけど消させてもらった。さすがにこれ以上は見過ごせないからね」

「この場所を突き止めるだけでも大変だったんだから、もう余計な事はしないでほしいなあ」

 猫妖精は私の顔の近くまで飛んできて、金色の側の目でじっと私を見つめた。

「ふーん?君、すごいね。元々はきっと、障壁のアルカナを持っていたんだろうけど…最近、能力が変異したみたいだ。」

 障壁のアルカナ?能力の変異?

「あ、そうだ。君のことは、連れていくよ。悪いけど、もうこの部屋には戻れないからね。君みたいのを、放っておくわけにはいかないんだ」

「抵抗したら、さっきの人狼みたいに消しちゃうからね。大人しくしてね?」

 猫妖精の言葉に、私は自分の召喚した悪魔が一瞬で消し飛ばされたのを思い出し、下手な抵抗はできないと悟った。それに、この妖精が私をどこに連れて行ってくれるのか、興味が湧いてきた。とっくに人間社会から興味を失っていた私は、むしろワクワクしはじめていた。

「わかった。従うわ。で、私を、どこに連れて行ってくれるの?」

 猫妖精はニヤリと笑い、杖を一振りした。

「それは着いてからのお楽しみさ。さあ、行こう!」

 そして、猫妖精に導かれるまま、私は新たな運命の道へと歩み出した。



続く・・・
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