ムルルンソフト
オンライン対戦アクション + ローグライクMOアクション
アイの記憶
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炎の少女 第一章
手のひらから水面に向かって、一直線に放たれた炎を、左右にゆっくりと曲げてみる。以前よりもコントロールしやすくなっていたが、まだ完璧には程遠かった。火の勢いを調整し、形を変え、時には一瞬で消すことも練習した。
すっかり日課となった、夜の小川での、孤独な訓練。あたしは、もし誰かに見られてもいいように、昔、弟と一緒に、夏祭りで買ってもらった猫のお面で、顔を隠すことにしていた。これを付けていると、天国のお父さん、お母さんが、見守ってくれている気がするのだ――・・・
* * *
あたしには、不思議な力があった。何もないところから、火を生み出すことができる能力だ。その力に気づいたのは、異世界の悪魔どもとの邂逅・・・あの事件がきっかけだった。
あたしは、山沿いの自然豊かな町に生まれた。家族構成は父、母、弟、そしてあたし。父は地元の小さな工場で働いていて、手先が器用で、時々家でも木工細工をしていた。母は町の薬局でパートをしていて、いつも家族の健康に気を配ってくれていた。弟はまだ小学校低学年で、あたしとは年が少し離れていたけど、いつも一緒に遊んでくれる可愛い弟だった。
その日は、家族全員で夏祭りに行くことになっていた。自宅から少し離れた町で開かれるお祭りで、その地域では少し有名な行事だった。そこに向かうための近道となる、片道一車線の山道を車で走らせながら、父は運転席で楽しそうに祭りの話をし、母は、
「二人とも浴衣がよく似合ってるわ。きっと素敵な写真が撮れるわね」
と微笑んでいた。弟は、お祭りで出る金魚すくいや射的に夢中になる気満々で、車の中ではしゃいでいた。
あたしたちが到着すると、すでに祭りは賑わっていて、提灯の明かりが辺りを照らしていた。太鼓の音が遠くから響き、出店の活気ある声が祭りの雰囲気を一層盛り上げていた。弟はすぐに目を輝かせ、
「お面が欲しい!」
と言い出した。あたしも弟の気持ちに賛同し、両親にお願いすることにした。
「じゃあ、二人ともお揃いのお面にしようか?」
父が笑いながら言い、あたしと弟は顔を見合わせて頷いた。猫のお面が、祭りの雰囲気にピッタリで、あたしたちはそれを頭に乗せ、楽しそうに境内を歩き回った。
弟は射的で真剣な顔をして景品を狙い、あたしは金魚すくいで苦戦しながらも、家族みんなで笑い合っていた。どの出店に行っても、何をしても楽しくて、時間が経つのを忘れるほどだった。やがて、花火が夜空を彩り、あたしと弟は手を取り合いながら見上げた。
祭りが終わり、そろそろ帰ろうということになった。父が車の運転席に座り、あたしたちは再び家へと向かった。車内はお祭りの余韻でいっぱいで、弟は手に入れた景品を見せびらかし、あたしも猫のお面を手に取りながら笑っていた。母は助手席で満足そうに目を閉じて、心地よい疲れを感じているようだった。
「楽しかったな、また来年も行こうな!」
父のその言葉に、あたしと弟は、
「うん!」
と元気よく返事をした。
道の真ん中に、巨大な影が現れた。父が急ブレーキを踏んだが、間に合わなかった。影は、信じられない力で車に突撃してきた。世界がひっくり返るような衝撃とともに、あたしは気を失った。
* * *
目を覚ました時、周囲は暗闇だった。車は無惨に壊れていて、父と母は動かなくなっていた。弟はかろうじて意識を取り戻していたが、彼もひどく怯えていた。
あの影が、再び現れた。月明かりに照らされたその姿は、そう、人狼・・・、ファンタジー世界から抜け出してきたような、屈強な狼男だった。彼の背後には、歪な痩躯の怪人たちが数体従っていた。彼らはあたしと弟を見下ろし、にやりと笑った。
あたしと弟は重傷を負っていたが、怪人の一体が不思議なカードのようなものを取り出すと、瞬く間に傷は癒え、あたしたちは立ち上がることができるようになった。
狼男たちの背後には、漆黒の炎で縁取られた円形の扉が口を開き、目を凝らすと、その向こうには、赤黒い草木に覆われた、禍々しい世界が広がっていた。弟は恐怖で震え上がり、あたしもどうしていいかわからなかった。狼男は、怯えるあたしと弟を、その屈強な両腕で軽々と抱え上げ、扉へと向かう。
「いやだ!離して!」
その瞬間、あたしの手から炎がほとばしった。
あたしの中の何かを消費して放たれた獄炎は、恐ろしい勢いで狼男と怪人たちを包み込んだ。奴らは、その禍々しい外見とは不釣り合いなほど情けない悲鳴を上げる。不思議なことに、その炎は弟には届かず、彼を守るように避けた。このまま、燃やしつくしてやる・・・!
一瞬の出来事だった。燃える狼男の背後のゲートから、悪魔じみた翼が生えた長身の女が飛び出し、そして、弟の手を掴むと、再びゲートの奥へと姿を消した。と、同時に、ゲートは幻であったかの如く、霞んで消えてしまった。
その光景を最後に、あたしは力を消費し尽くし、意識を手放した――・・・。
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炎の少女 第二章
あたしは、その後、父の伯父夫婦に引き取られた。ふたりには、あたしより数か月年下の男の子がいたけれど、家族そろって、あたしを歓迎してくれた。
伯父様はジャーナリストで、あまり家にはいなかったけれど、不愛想ながら誠実な人だった。叔母様は優しくて家庭的な人――もっとも、その優しさには、外と内を明確に分けるような、どこか選別的な感覚があったけれど、家族に対してはとても優しかった。あたしはその家庭の中で、安心して成長していった。
高校生になったあたしは、自然とクラスの人気者になっていた。明るくて面倒見の良い性格だと目され、みんなに頼りにされる存在だった。休み時間も友達に囲まれて、楽しい日々を送っていた。
でも、高校では多くの友達が部活に入っていたのに、あたしはどの部にも所属しなかった。文化系の部活にはあまり興味がなかったし、運動部に誘われても断っていた。なぜか、同級生たちが自分よりひどく脆弱に思えて、そんな彼らと同じ土俵に立つのが、ズルをしているような罪悪感を呼び起こすからだ。それに何より――あたしには、やらなきゃいけないことがある。
* * *
あたしには、夜ごとに欠かさない習慣があった。それは、家を抜け出して近くの小川へ行き、火を操る訓練をすることだった。いつか、あの世界に乗り込んで、弟を取り戻す。その日のために、あたしは自分の力をもっと鍛えなきゃいけない。これは、あたしの戦いだ。あんな化け物どもとの戦いに、伯父様や叔母様、新しい弟を巻き込むわけにはいかない。今日もあたしは、昔の夏祭りで買ってもらった色あせた猫仮面をかぶり、いつもの小川へと向かう――
その頃、断続的に流れる異様なニュースに、全国が不安と恐怖に包まれていた。ある工事現場での作業員たちの惨殺事件を皮切りに、各地で謎の大量殺人事件が続発していたのだ。
犯人にまつわる噂は、まことしやかに囁かれていた。その中には「仮面をかぶった異常な怪力の男が、武器も使わず素手で人間を引き裂く」という話もあれば、「その傍らには、小さな悪魔が付き従っている」というものもあった。あたしは、過去の記憶から、あの異様な世界の者たちが、ふたたびこの世界に現れたのではないかと直感した。
これは――チャンスかもしれない。その犯人を捕まえて、あの世界に行く方法を聞き出す!
あたしは、さらに能力を鍛えることを決意した。小川での訓練は、日を追うごとに激しさを増していった。手のひらから迸る炎の熱さと輝きが、あたしの決意を映し出していた――
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続く・・・
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※このページの更新は不定期です
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